6年後、世界は・・・・・・
- 1 名前:名無しちゃん…電波届いた?:2008/02/07(木) 11:00:00
- うおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
- 2 名前:名無しちゃん…電波届いた?:2008/02/07(木) 16:27:31
- それこそが至高のネットワーク
- 3 名前:名無しちゃん…電波届いた?:2008/02/07(木) 21:23:19
- 半端な覚悟でスレを立てるな
- 4 名前:名無しちゃん…電波届いた?:2008/02/08(金) 02:08:11
- ∧_∧ ∧_∧
_(´・ω・)(´-ω-)_
|≡(∪_∪≡(∪_∪≡|
`T ̄∪∪ ̄ ̄∪∪ ̄T
゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛
- 5 名前:名無しちゃん…電波届いた?:2008/02/08(金) 02:38:12
- えへっ♪えへへっえhえへへえs♪ぅええへhq へっ♪
- 6 名前:名無しちゃん…電波届いた?:2008/02/08(金) 04:28:18
- アナログのテレビ
観れない…(T_T)
- 7 名前:パリッス ◆55B.IrRv4s :2008/02/08(金) 18:03:29
- ( ゚Д゚)<ドゥドゥドゥドゥドゥー
- 8 名前:ミスター味っ子:2008/02/10(日) 11:36:56
- えへええええええええええええええええええええええええええええ
- 9 名前:名無しちゃん…電波届いた?:2008/02/10(日) 14:20:04
-
┌┴┐┌┴┐┌┴┐ -┼-  ̄Tフ ̄Tフ __ / /
_ノ _ノ _ノ ヽ/| ノ ノ 。。
/\___/ヽ
/ノヽ ヽ、
/ ⌒''ヽ,,,)ii(,,,r'''''' :::ヘ
| ン(○),ン <、(○)<::| |`ヽ、
| `⌒,,ノ(、_, )ヽ⌒´ ::l |::::ヽl
. ヽ ヽ il´トェェェイ`li r ;/ .|:::::i |
/ヽ !l |,r-r-| l! /ヽ |:::::l |
/ |^|ヽ、 `ニニ´一/|^|`,r-|:「 ̄
/ | .| | .| ,U(ニ 、)ヽ
/ | .| | .|人(_(ニ、ノノ
- 10 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/02/14(木) 23:16:40
- 世界と聞くと西園寺世界を思い浮かべてしまう私って…
- 11 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/02/14(木) 23:21:02
- 私はほのぼのSSを書くのが苦手だ。
どうしてもホラーやグロといたネタに走ってしまう。
何とかしてほのぼのネタを書こうとしても、ダークを含まずにはいられない。
これは、私が以前、別の場所で書いたショートネタ。
出典はSchoolDays。
@語り手:誠
世界と別れて二ヶ月が経つ。
学校で聞いた噂では、世界は最近、家に帰っていないらしい。
自室のベッドの上で横になりながら、そんなことを聞いたのを思い出した。
どうしても気になり、机の中にしまっていたメモ帳を引っ張り出し、世界の携帯へかけてみた。
言葉の手前、携帯のメモリから世界の電話番号を消していたのだ。
ピロロロロ……
世界の携帯の着信音は、家のリビングから聞こえてきた。
A語り手:誠
メールの着信音が鳴った。
確認してみると、ついさっき別れ話をした言葉からのメールだった。
『誠くん、上を見て下さい♥』
顔を上げると、こちらに向かって飛び降りてくる途中の言葉の姿があった。
B語り手:???
ある夜、歩道橋を歩いていると背後に人の気配を感じた。
振り向くと、そこには、鋸を構えた見知らぬ少女の姿が。
首筋には、いつまにか鋸の刃が宛がわれていた。
「……す、すみません、人違いでした。」
そういうと少女は、鋸を離し、どこかへ去っていった。
- 12 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/02/14(木) 23:23:12
- C語り手:???
ある夕方、海岸での散歩の帰り道。
後を振り向くと、そこには包丁を構えた少女が。
「……あ、人違い」
少女は踵を返すと、脱兎の如く去っていった。
D語り手:泰介
ある夕方、海岸での散歩の帰り道。
後を振り向くと、そこには包丁を構えた女が。
よく見ると、学園を退学して失踪していた西園寺だった。
「…さ、西園寺…?」
「人違い…だけど、お前も死ね!」
「がぁっ!」
十分後、俺は死んでしまった。
E語り手:世界
嫉妬に狂って誠を殺した私。
その後日、桂さんから荷物が届いた。
大きな箱だった。
添えられた手紙にのタイトルには、プレゼントとある。
「西園寺さんを決して許せませんが、一度はあなたに感謝したのも事実ですから……」
中には、誠の首から下の遺体が詰め込まれていた。
- 13 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/02/14(木) 23:25:31
- F語り手:誠
ある日、学校から帰って家に入ると違和感を感じた。
何故か身体を警戒心が包む。部屋の様子を見渡した限り、別段、部屋の中の物の位置が変わったわけでもなかった。
そもそも、そんな心当たりも無かった。
ただ気のせいだと思っていた数日後。
妙な息苦しさで夜中に目が覚めた。
…リビングから物音が聞こえる。
静かに起き出して、そっと扉を開けると、隙間から覗いて音の発信源を目で探る。
「───!」
そこには、フランスに行ったはずの世界が、冷蔵庫を漁っている姿があった。
G語り手:世界
その日、朝目覚めると、きちんと締まっておいたはずのダンベルが枕元にあった。
おかげで、寝返りを打った拍子に頭をぶつけてしまった。
誠と桂さんのことでショックを受けて引き篭もって、数日後目のことだった。
「なんで勝手に移動してるのよ。出した覚えは無いんだけどな…」
後日、夜中に人の気配がして目が覚めた。
その直後、後から”ボスッ”と、ベッドの上に重たいものが落ちる音が。
「また……また出来なかった……」
背後から聞こえた声には聞き覚えがあった。
ダンベルを落としていたのは、お母さんだった。
H語り手:誠
ある日、電車に乗っていたときのこと。
俺は、乗車口付近で立っていて、窓の外の景色を見ていた。
電車が地下鉄に入って、景色がトンネルの壁に変わったとき、あの日、自殺して死んだはずの言葉の姿が窓ガラスに映っていた。
言葉は反対側の乗車口に立って、俺に微笑みかけていた。
(言葉!?)
俺が気付くと同時に、言葉はこちらに歩み寄ってきた。
慌てて反対側の乗車口に振り向くが、そこには誰もいない。
(何だ…ただの幻か…。疲れてるんだな、俺)
そう思って再び窓ガラス視線を移した。
「───」
そこには、ガラスの向こうで、頭から血を流して微笑む言葉の姿があった。
- 14 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/02/14(木) 23:27:49
- 新年が明けた数日後のある日、寒空の下を俺は歩いていた。
言葉と間に子供が出来たことを知ったのは、夏が始まろうとしていた頃のことだった。
あの頃は、言葉と将来を真剣に話し合っていた頃で、結婚式の会場選びの話に花を咲かせていた。
子供の名前は、言葉と一緒に、産婦人科に検査に行って性別が判明した時に決めていた。
当時の医者の話では、出産は年明けになるだろうとのことだったが、まさしくその通りになった。
そう。俺は今、出産を控えた言葉が入院する病院に向かっている。
俺と言葉の歴史的瞬間に立ち会えることで胸は一杯で、足は自然と早くなっていく。
タクシーを使えばすぐに病院に着くが、あいにく、この時間にタクシーは一本も走っていなかった。
珍しいこともあると思い、足を進めている途中、俺はふと、過ぎ去りし六年前の出来事を思い出した。
「俺には言葉がいる。世界のことはいい友達としては見ている。だけど……それ以上でも、それ以下でもないんだ。」
「そう…。そうなんだ……。」
「俺には言葉がいる。世界の気持ち、受け取ることは出来ない。」
「……」
「……」
「……」
「……そっか。それじゃ、仕方ないよね。」
「……え?」
「あはは…私も虫のいい話よね。うん、ホント。……桂さん、誠。二人ともお幸せにね。」
「世界…」
「西園寺さん…」
あの日のことは、今でも記憶にはっきりと残っている。
話をする切欠さえつかめなかった俺と言葉を、仲介してくれた世界。
世界のおかげで付き合い始めた俺達だったがん、後に、世界も俺に好意を寄せていることが、世界の告白で分かった。
言葉と付き合っていた俺だったが、世界とは席が近く、話をする機会も多いためか、俺は世界の性格が掴めるようになっていた。
また、世界には友人が多く、彼女達は世界のことをよく知っており、特に世界の親友の刹那に至っては尚更だ。
彼女達から世界の話を聞き、世界と一緒の時間を過ごすうちに、気持が揺らいだこともある。
だが、最終的に俺は言葉を選び、二人の気持をはっきり明かした。
あの日、世界は酷く悲しそうな顔をしたが、最後には笑って僕達を祝福してくれたのだ。
- 15 名前:名無しちゃん…電波届いた?:2008/02/14(木) 23:28:33
- 「ハァ…あぁ…!」
「もう少しだよ言葉、頑張れ!!」
「わ、私、産みます…!誠くんの赤ちゃん、産むから…!くぅっ!」
病院に着いた俺は、すぐに言葉の待つ病室へ向かった。
言葉は既に分娩に入っており、急いで言葉の元へ駆け寄って手を握った。
俺が到着するまで寂しくて不安だと言っていたが、俺が激励を送ると、不安を吹き飛ばすように笑顔を浮かべてくれた。
それから何時間が経過したか、よく覚えていない。
ついにその時は訪れた。
「……オギャア!……オギャア!」
室内に響き渡る赤ん坊の泣き声。
それは紛れも無い、俺と言葉の愛の結晶。
待ち焦がれた瞬間だった。
「…やったぞ!産まれたぞ!」
「あ、あなた……!」
産まれたばかりの赤ん坊を抱き上げ、処置をする看護婦。
俺は言葉の偉業を称えるように賞賛し、改めて妻の手を両手で握る。
言葉の俺への呼称は、母親としての自覚が芽生えたのか、あなたに変わっていた。
そこへ、不意に看護婦から声がかけられた。
「元気なお子さんですねー。」
「ありがとうございます。早速、俺たちの赤ちゃんを…」
「本当に元気な子だよねー。殺してやりたくなるくらいにさ。」
「───」
「───」
二人の思考が同時に停止した。
赤ん坊を抱き上げた看護婦は、六年前、俺達を笑顔で送り出してくれたはずの世界だった。
完
- 16 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/02/14(木) 23:39:24
-
心には大好きなお姉ちゃんがいます。
名前は桂言葉。
とても優しいお姉ちゃんです。
心が赤ちゃんの時から、お姉ちゃんは心の面倒を見てくれています。
お母さんがお仕事で忙しいとき、お母さんに代わってお世話をしてくれていたのです。
物心ついたときから、心はお姉ちゃんとよく一緒にお出かけしたりしていました。
外は一人じゃ危なくて出られなかった時、心の傍にいつも一緒に居てくれたのは言葉お姉ちゃん。
心の知らない世界をたくさん教えてくれて、あの頃は毎日が楽しかった。
けれど、今、お姉ちゃんは居ません。
お姉ちゃんはある日を境に、お姉ちゃんじゃなくなってしまいました。
そうなる原因を作った女の人が居ましたが、その人の名前は知りません。
だって、忘れるって決めたから。
- 17 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/02/14(木) 23:39:58
- それは、遠い冬の日のこと。
今もはっきり覚えてるあの冬。
お姉ちゃんは昔、誠くんという彼氏と付き合っていて、恋敵が居ました。
その人の名前は言いません。
だって、忘れるって決めたから。
あの日、心の誕生日を祝ってあげるって、お姉ちゃんは家でお料理を作っていていた。
誠くんも呼んで祝ってくれるということで、心はものすごくドキドキしていた。
きっと、忘れられない日になる。心の一生の思い出になると思っていた。
確かにその通りになったけど、とても悲しい記憶になってしまった。
誕生日のパーティの時間になったとき、誠くんがお家に来てくれてた。
その時、横に女の人を連れていました。
その人の名前は言いません。
忘れるって決めたから。
- 18 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/02/14(木) 23:41:26
- 誠くんはその人と一緒に家に上がると、心に誕生日プレゼントをくれました。
お姉ちゃんにも一緒にプレゼントを渡してくれて、お姉ちゃんがとても喜んでいたのを覚えています。
ただ、誠くんと一緒に居た女の人を見たとき、お姉ちゃんは少し驚いていた。
心がその理由が分かったのは、ずっと後になってから。
誕生日パーティはとても楽しくて、あっという間に時間が過ぎた。
気が付いた時には、時間が明日になりそうで、パーティはそこでお開きになった。
誠くんたちが帰るのを見送ろうと、心も玄関に立とうとしたけど、お姉ちゃんに早く寝るように言われた。
だから、心は一旦部屋に戻る振りをして、こっそり離れたところから誠くんを見送った。
そのとき、誠くんはお姉ちゃんに何かを話をしていました。
それを聞いたお姉ちゃんが、両手で顔を覆って泣いていたのを覚えています。
お姉ちゃんを泣かせるなんて、誠くんが何をしてそんなことになったのか、その時の心には分かりませんでした。
誠くんと一緒に居た女の人も、誠くんと頭を何度も下げてお姉ちゃんに謝っていました。
だけど、その女の人の名前を心は知りません。
忘れるって決めたから。
- 19 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/02/14(木) 23:42:22
-
誠くんたちが帰った後、お姉ちゃんはどうしてたんだろう?
心は途中で眠くなって、部屋に戻ったので分かりません。
けれど、翌朝、お姉ちゃんは何事も無く心に挨拶してくれて、その時の話をしてくれた。
心は気になって、
「誠くんは今度、いつ遊びに来るの?」
って聞いたら、 お姉ちゃんは
「季節が変わったら来てくれるますよ」
って教えてくれた。
そう言うだけだった。
あれからも、お姉ちゃんは二人分のお弁当を作って、学校に出かけていた。
心は、お姉ちゃんは誠くんと上手くいってると思っていました。
だけど、帰ってきたお姉ちゃんに誠くんの話を聞くと、悲しそうな顔をするばかり。
その理由は、その時、心はまだ知りませんでした。
- 20 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/02/14(木) 23:43:59
- 誠くんがお家に遊びに来なくなって4年が経ちました。
心は中学生になりました。
新しいお友達をたくさん作って、部活にも参加して、心は楽しい毎日を過ごしていました。
お姉ちゃんは高校を卒業して大学通い。
家に帰ると、お姉ちゃんは大学で学んだことを話してくれたり、心が中学の勉強で分からないことを教えてくれました。
他の誰にも負けないように、誠くんに会っても恥ずかしくないようにって。
だから、学校での成績は自慢できるほうだと思うな。
でも、誠くんが褒めてくれないと心は余り嬉しくなかった。
勿論、お母さんとお姉ちゃんに褒められて嬉しい。
私が本当に褒められたいと思ったのは……誠くんだったから。
お姉ちゃんは、その頃はまだ、忙しいお母さんに代わって心の面倒を見てくれていた。
誠くんと再会できる可能性が残されたこの家で。
- 21 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/02/14(木) 23:46:19
- 誠くんがお家に遊びに来なくなって8年が経ちました。
心は高校生になりました。
高校に入学してやっていたことと言えば、特に目立ったことはやってませんでした。
あ、でも、お姉ちゃんと同じように委員会に入って、活動とか頑張ってたから、そうでもないかも。
心が進学した高校は、お姉ちゃんと誠くんが通っていた榊野学園。
もう一人、知っている人がいたような気がしたけど、心はその人のことを知りません。
忘れるって決めたから。
榊野学園は、お姉ちゃんが着ていた制服を見て、心も着てみたいなって思ってた頃から決めてた。
そう、それは、誠くんが家にまだ遊びに来てくれていた、小学校の時から。
この学園には、お姉ちゃんが誠くんと過ごした路線、学園、教室……時間がある。
ここでお姉ちゃんはたくさんの思い出を作ったんだ……辛く、悲しい思い出も。
この頃から、お姉ちゃんは少し疲れているようでした。
- 22 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/02/14(木) 23:47:46
- 誠君がお家に遊びに来なくなってから、12年が経ちました。
心は大学生になりました。
お姉ちゃんは大学を卒業して、小説家になりました。
大学在学時代に書いた小説が、心の同世代の人たちを中心にヒットしたのです。
今では売れっ子小説作家として頑張っていて、先日、心にこんな話をしてくれました。
「私の書いた本を、どこかで誠くんが見てくれてるって信じている。私の書く本が私と誠くんを繋いでいるの。」と。
心はその時、暗い顔をすることが多かったお姉ちゃんに、久しぶりの笑顔を見ました。
だから、心は知らなかった。
お姉ちゃんがあの時……あの時……
ところで、心の大学の入学式の時、一緒に来てくれたお母さんが言いました。
高校に通ってた頃の言葉お姉ちゃんと、瓜二つだって。
今の私なら、お姉ちゃんに代わって誠くんを連れ戻せるのかな…
そして、お姉ちゃんに本当の平穏が戻ってくるのかな…
心の大好きな言葉お姉ちゃんに……
- 23 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/02/14(木) 23:49:06
- 大学生三年生になったとき、心に大きな転機が訪れた。
いつも忙しいお母さんに代わって、お姉ちゃんのお手伝いをしようと思ったときのこと。
理由は分からなかったけど、お姉ちゃんは通院をすることが多くなっていた。
だから、お母さんが忙しいとき、いつも心の面倒を見てくれたお姉ちゃんに恩返しの意味も込めて、
偶には心が、お姉ちゃんの部屋を掃除してあげようと思っていた。
同じ家に住んでいながら、小学校卒業以来、心はお姉ちゃんのお部屋に入っていなかった。
大学卒業を一年後に控えた年、十年振りに入った言葉お姉ちゃんの部屋。
部屋に入った心は、手にしていた掃除道具を思わず落としてしまった。
……部屋一面に誠くんの写真。
- 24 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/02/14(木) 23:51:56
- 部屋中に誠くんが溢れていた。
いくつもの同じ写真が壁中に……
写真の上にまた写真を重ねたために、壁の所々で厚みが違っているところがあった。
……多分、最初は写真立てに入れて、机の上に飾っていただけなんだと思う。
それが、年月が経つうちに、写真立てに収まりきらなくなって……
心は、ふと、二冊の日記を見つけた。
それはお姉ちゃんのつけているらしい日記。
鍵付きのはずの二つの日記は、何故かどちらも鍵がかかっていなかった。
心は悪いこととは思いつつも、どうしても中が気になって日記を読んだ。
そして後悔した。
一冊は、誠くんがこの家に一緒にいると仮定されて書かれたものだった。
おはようの挨拶で始まって、おやすみなさいの挨拶で終わる日記。
何故か外に一緒に出かけたことは書かれていなかった。
その代わりなのか、外に出た時は、携帯電話から家にかけて話をしていることになっていた。
悲しい日記。
もう一つはお姉ちゃんがお姉ちゃんと闘う日記。
自分に迫り来る精神破綻に恐れていることが書かれた日記。
それまで心が知らなかったこと、お姉ちゃんの通院先とその理由を察した。
…ここは、お姉ちゃん以外が踏み入ってはいけない部屋になってしまっていた。
心は日記を閉じて元の場所に置くと、すぐに部屋を出た。
- 25 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/02/14(木) 23:53:40
- だけど後日、心の様子がおかしいことに気付いたお母さんに、お姉ちゃんの日記を見たことが分かってしまった。
さすがはと思ったけど、また後悔。
お母さんにお姉ちゃんの日記を見たことを話し、新たに分かったことある。
正確に言えば、はっきりしたこと。
お姉ちゃんは今、精神の病に掛かっていて、病を治療するために専門病院に通院していること。
けれど、どんなに手を尽くしても病状の進行を遅らせるのが精一杯で、根本的な解決方法は一つしかないこと。
お姉ちゃんが書いた小説が、自分の恋愛体験を元にして執筆されたものであること。
小説の内容は、自分が叶えたかった願望、つまり、自分と誠くんが結ばれる未来が書かれたものであること。
そして、お姉ちゃんの精神破綻はすぐそこまで迫っているということ……
病院の先生のお話だと、今の言葉お姉ちゃんの精神状態は、例えて言うなら、破裂寸前の風船に似たものらしい。
何が切欠で破裂してしまうか分からない、危険な精神状態。
- 26 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/02/14(木) 23:56:48
- それからというもの、お姉ちゃんは、心たちが定期的に話しかけないと、自分の殻に閉じこもるようになってしまった。
普通にお話してる時は病気が嘘のように明るいのに、あの女の人の話しになると、お姉ちゃんは途端に人が変わってしまいます。
お姉ちゃんは小説の執筆を続けていたけど、それはそれで定期的に途中で止めないといけない。
小説の中の自分が本当の自分だと思い込んで、精神が現実に戻って来れなくなるを防ぐために。
お姉ちゃんを一人にするのは危険なため、お母さんも無理をして、仕事を早く上がって家に帰ってきている。
心もお姉ちゃんが心配なので、大学で部活に入らないで、講義が終わるとすぐに帰ってくるようにした。
病院に入院させて、病気の治療に専念できるようにするべきか、お母さんとお父さんと一緒に真剣に悩んだこともある。
だけど、そんなことをしたら、お姉ちゃんは一人になってしまう。
お姉ちゃんは、心たち以外の人に話しかけられると、返事をしなくなってしまった。
もし心たち以外で返事をする人がいるとしたら、それは誠くんしか有り得ません。
心も、お母さんも、お父さんも、誠くんもいない病院にお姉ちゃんを入院なんてさせたら、お姉ちゃんは生きていけるんでしょうか……?
だけど…だけど……言葉お姉ちゃんは……もうすぐ……
もう、言葉お姉ちゃんを病気から救えるのは誠くんしかいません。
お願い、誠くん……お姉ちゃんを助けてあげて……
心たちの言葉も、お姉ちゃんに届かなくなっちゃう前に…
- 27 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/02/14(木) 23:58:26
-
あれから月日はまた流れて、心は大学を卒業しました。
言葉お姉ちゃんは、大分疲れてしまったようです。
もう……
誠くん以外の声は…届きそうにありません…
だから
西園寺さん
誠くんを返してください。
あなたが一度は差し出しておきながら奪った誠くんを、早く…言葉お姉ちゃんに返してあげてください。
心が、言葉お姉ちゃんのように、壊れてしまわないうちに……
- 28 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/02/15(金) 00:26:44
-
* * *
今日は、お姉ちゃんが所属する出版社の担当者が、お姉ちゃんの原稿を取りに来る日。
自分が抱えている病と闘いながら、お姉ちゃんが執筆した小説の原稿を。
私はお姉ちゃんの代わりに玄関口で、担当者さんに原稿を渡して、それをお姉ちゃんに報告します。
「……ありが…とう……心……」
お姉ちゃんは途切れ途切れにお礼を言うと、また机に向かい始めました。
返事をしてくれてる分にはまだ大丈夫だけど、今度は十分後に部屋を訪ねて、お姉ちゃんの執筆を止めなきゃいけない。
そうしないと、お姉ちゃんの精神がこっちに帰って来れなくなってしまうから。
お姉ちゃんの書いた小説は、お姉ちゃんの所属する出版社で、毎月出版社の売り上げNo1を記録している。
連載当初は、十代の学生を中心に読まれていた作品だったけど、最近は、二十代から五十代までに読者の年齢層が広がったらしい。
担当者さんの話では、作品中の、”一人の男性を巡って複数の女性が対立するシーン”が非常に生々しく、読者の間では定評があるそうです。
また、お姉ちゃんが連載とは別に書き下ろした本があるのですが、その本は、昨年度のはベストセラーとなりました。
それは嬉しいことだけど、素直に喜ぶことは出来ません……
私は、いつか、お姉ちゃんが心に言ってくれた言葉を思い出した。
『私の書いた本を、どこかで誠くんが見てくれてるって信じている。私の書く本が私と誠くんを繋いでいるの。』
誠くんは……
誠くんはどこかで、お姉ちゃんが書いた本を読んでくれてるのかな?
- 29 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/02/15(金) 00:27:47
- お姉ちゃんは今、極度の精神衰弱で身体が弱り、車椅子無しでは生活出来なくなってしまった。
それでも小説を書き続けているのは、僅かな希望がお姉ちゃんを支えているから。
震える手でゆっくりと一文字、また一文字……
既に向こう一年分の原稿を書き終えている今も、お姉ちゃんは執筆を続けている。
けれど、いつまでもその希望がお姉ちゃんを支えてはいられない。
残された時間が残り少ないことが、嫌でも心には分かる。
誠くんを取り返さない限り、根本的な解決にはならない。
お姉ちゃんの病気は一生治らない。
だから……
だから、心がお姉ちゃんに代わって誠くんを取り戻すしかない。
例え、どんな手段を使ったとしても。
- 30 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/02/15(金) 00:28:41
- 私は、誠くんを取り戻すための計画を立て、それをスケジュールと呼称することにした。
これから先、長い闘いになるだろう。
どれだけ掛かるか分からないけれど、私はどうなっても構わなかった。
お姉ちゃんが元気になってくれるなら、私は何だってする。
実は私は、いつか役に立つ日が来ることを予想し、誠くんの情報を集めていた。
榊野学園時代に築いた友達や知り合いを頼り、自分の足でも可能な限り。
こうなることが分かっていたのなら、もっと早くから行動に移していたのに。
そう、誠くんが最後にお家に遊びに来てくれたあの日から。
…いや、それは考えないようにしよう。
既に過ぎてしまったことを悔やんでも、ただの足枷にしかならないのだから。
少しずつ集めていた情報を総合すると、最初はおぼろげだった誠くんの所在が掴めた。
誠くんは海外に西園寺さんと移住するはずだったが、それが中止となり、今も国内にいる。
誠くんが住んでいるところは、私たちが住んでいるところからそれほど離れていない。
誠くんは結婚して西園寺さんと一緒に暮らしていて、子供が二人いる。
誠くんと西園寺さんは共働きらしい。
- 31 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/02/15(金) 00:30:19
-
もしかしたらとは思ったけど、誠くんは既に家庭を築いていた。
───本当だったら、お姉ちゃんが誠くんと築くはずだった家庭を
とてもじゃないけど、お姉ちゃんに言えるわけが無かった。
もし、このことを知ったら、言葉お姉ちゃんは……
いや、考えるのはよそう。
二人が今どうしてるかなんて関係ない。
誠くんを取り戻すのに、私が少し苦労するだけだ。
いざとなれば、私は身を挺してでも誠くんを……
所在は掴めた。
けど、それではまだ不完全。
次は、誠くんと西園寺さんの詳細を調べる必要がある。
私が最初に着目したのは、二人の勤め先と勤務時間帯。
何故なら、誠くんと二人で話せる時間を確保するのに必要な情報だから。
そのために、二人の職種や勤務形態、残業の有無等を知らなければならない。
今の誠くんの家の住所を、私が掴んでることを、誠くんが知ってるわけが無い。
いきなり尋ねるわけにはいかないし、それでは駄目。
偶然、家の近くを通りかかって、ばったり再会。
近所の喫茶店に入ってお喋りできるシチュエーションが無難。
幸い、誠くんの家の近くにはそれに適した喫茶店があった。
「スケジュールは必ず実行に移す…。必ず誠くんを取り戻して、お姉ちゃんの元に連れて行ってみせる。」
だから…待っててね?
言葉お姉ちゃん……
- 32 名前:名無しちゃん…電波届いた?:2008/02/15(金) 08:39:32
- 阿
- 33 名前:名無しちゃん…電波届いた?:2008/02/16(土) 23:21:15
- SchooDaysって面白いの?
- 34 名前:名無しちゃん…電波届いた?:2008/02/17(日) 15:42:16
- もういい私が出撃する君はもう帰れ
- 35 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/02/18(月) 23:32:10
- 得られた情報を元に私が行動を開始したのは、五月の中旬頃のことだった。
思った以上に調査は難航し、行動に移るのが、予定より二ヶ月も遅れてしまった。
遅れた理由は、二人の行動だけではなく、他にも着目する必要な要素があったから。
誠くんと西園寺さんのことについてはそれほど時間は掛からなかった。
けれど、二人を取り巻く人間について調査するのは、私の人脈を可能な限り行使しても、
遅れを二ヶ月に留めるのがやっとだった。
最も、誠くんと再会するのに最良な日を割り出すのに、大きく時間を割いたことも理由だけど。
お姉ちゃんはついに病院に入院し、現在、それから一ヶ月が経っている。
お姉ちゃんが書いていた小説は、今は書き溜めた原稿を、毎月、決まった分だけ出版社の人に渡している。
原稿は向こう一年三ヶ月分まであるが、原稿が無くなる前に誠くんをお姉ちゃんに会わせなくちゃいけない。
私は、行動開始初日、この日のために買い揃えた服を着て、家を出た。
誠くんが私を見たとき、すぐに言葉お姉ちゃんを思い出せるようにかなり気を遣った。
だから…思い出してくれるといいな。
電車で一駅行ったところに、誠くんの家はある。
誠くんが私達のお家に遊びに来なくなった日から、ずっと同じ場所に。
西園寺さんがフランスへ渡航する話を噂で聞いていたから、もうそこに誠くんはいないと思っていたのだけど。
- 36 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/02/19(火) 00:39:47
- 誠くんは今日は休日。
休日の誠くんの行動パターンは把握している。
西園寺さんが休日で出勤日のシフトの今日なら、誠くんは午前十時半すぐに、
家の近くにある喫茶店に足を運ぶはず。
私は喫茶店から離れた場所から、誠くんが入店するのを見届けて後から入店すればいい。
この日のために、私は何度か件の喫茶店に足を運んでいた。
さすがに顔なじみとまではいかないけど、再会はよりスムーズに行えるから。
待機すること十分。
歩道を歩いて喫茶店へ向かっていく、誠くんの姿を確認できた。
彼が喫茶店に入ると、私は五分ほど遅れて喫茶店に入った。
「いらっしゃいませ」と、入店した私に声をかけてきたのは、いつも私に声をかけてきたマスターだった。
カウンター席に座る誠くんの姿を認めると、私はそっと近づいて声をかけた。
「あの、人違いだったらすみません。もしかして…伊藤誠くんですか?」
「え?そうだけど…。き、君は…!?」
誠くんはとても驚いた顔をして私を見た。
それも当然かもしれない。十年以上前に、自分が別れを告げた女性とそっくりな人物がいるのだから。
「やっぱり!もしかしたらと思ったけど……」
「言葉…なのか…?」
「いいえ。」
「……そうか、心ちゃん!」
「あっ!覚えててくれたんですね。……お久しぶりです、誠くん。」
「あぁ。久しぶり。……あれからもう十年か。大きくなったね、心ちゃん。」
「誠くんも、大分雰囲気が変わったね。結婚したからかな?」
「知ってるんだ…。うん、世界に尻に敷かれて、色々あったから。」
「そっか……」
「心ちゃん……あの……」
「…お姉ちゃんのこと?」
「……うん。その……言葉は、今……どうしてるの?」
- 37 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/02/19(火) 00:50:24
- その質問を待っていたとばかりに、私は顔を俯かせる。
誠くんが心配そうに覗き込むことを期待していたが、その期待に誠くんが応えてくれると、
私は言葉お姉ちゃんの現状を話し始めた。
今日はここまでにしておくわぁ。
- 38 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/02/19(火) 20:48:14
- 何となく、アメリカンジョークの長編を作ってみた。
諸事情によりフランスへ渡っていた清浦刹那。
彼女は、母親の仕事の都合で再び日本へ戻ってきた。
出国した日から数えて、三年振りのことだった。
帰国したら最初に会いに行こうとした人物、親友の西園寺世界の住まいへ向かう途中、
彼女は公園で、もう一人会いたいと思っていた人物と出会った。
伊藤誠。かつて、自分が思いを寄せ、諦めた男性。
そんな彼は、公園のベンチに腰掛け、顔を俯かせていた。
刹那は思わず、誠の近くへと駆け寄り、声をかけようとしたが、途中で彼が泣いていることに気づいて足を止めた。
彼の両手には一枚の写真が握られており、彼は時折、「世界…世界…」と呟いていた。
「伊藤…?」
「……せつ、な…?」
刹那の声に気付いて、誠は顔を上げた。
一瞬ほうけたような顔をした誠は、「久しぶり」と声を発し、二、三、言葉を交わすと、再び顔を俯かせた。
写真に写るものが気になった刹那は、そっと写真を覗き見たが、そこには、先ほどまで誠が口にしていた人物が写っていた。
撮られたのはいつ頃のものかはわからないが、恐らく、自分が出国してから一年ほど経ったものだろうと推測した。
同時に、彼が涙を流していた理由を察し、信じたくはないと思ったが質問することにした。
「伊藤…どうして泣いてたの?」
「…うぅ……世界…」
「まさか……」
「痩せてたころの世界…うぅ…!」
「…………」
その言葉の意味を理解するのに、一分ばかり時間を要したが、理解したとき、刹那は誠の頭を思わず殴りつけていた。
オチなし
- 39 名前:名無しちゃん…電波届いた?:2008/02/20(水) 18:37:58
- スクイズのOVAが出るらしいな
- 40 名前:名無しちゃん…電波届いた?:2008/02/21(木) 13:07:10
- 保
- 41 名前:水銀燈(Merury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/02/21(木) 21:03:03
- 私的メモ
病室に入ってきた医師は、私の気分を尋ね、いくつかの検査を行った後、病室を出ようとした医師を引き止めた。
今日まで、自分の身に何があったのかを知りたく、検査の間に質問を用意していたからだ。
質問に対する医師の答えは、私を驚かせるものばかりだった。
私が眠っていたのは五日程度だと思っていたが、実際は一ヶ月近く眠っていたという。
ベッドの上で倒れ伏していた私を、部屋の掃除係から連絡を受けたホテルマンが発見し、病院に通報してくれたらしい。
私が宿泊していたホテルの部屋は、連絡を受けた母によって解約され、母が日本に来てべつのホテルに宿泊していることと、荷物は母に引き取られていることも知った。。
他にも細かい質問はしたが、それらの医師の回答に満足すると、私は一人にしてもらい、今後のことを考え始めた。
さすがに病院沙汰になった以上、母が日本に来るのは無理も無い。
退院次第、私は母と一緒にフランスへ帰ることになるだろう。
だが、私はまだ目的を果たしていない。
- 42 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/02/26(火) 22:19:11
- ハァ、困ったわね。
いきなりSS書く気力がなくなるなんて…
私、疲れてるのかしらぁ…
- 43 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/02/28(木) 01:13:42
- 「おはよう、世界。」
「世界、遅い…」
「おはよう、お寝坊さん。」
「おはよう、誠、母さん。」
ある朝、誠が台所に立って朝食を作ってくれていて、食卓にはお母さんと刹那がいた。
二人は食事が出来るのを心待ちにしているようだ。
挨拶を交わし、私が席に着こうとした時、誠が口を開いた。
「材料が足りない。」
「何の材料が足りないの?」
「カレーの材料だよ。」
「困ったわねぇ。買い置きしてたつもりなんだけど。どうしましょうか誠くん」
「そうだな。仕方ない、悪いんだが世界、カレーの材料が足りないから、ちょと死んでくれないか?」
「ハァ?」
誠のその言葉に私は耳を疑った。
「誠…あんた何言ってるのよ?」
「カレーの材料が足りないから死ねって言ってるんだ。ほら!」
誠は手に持っていた包丁をこちらに向かって投げてきた。
「ちょっと、誠!悪ふざけでも、度が過ぎるわよ!!」
「悪ふざけじゃない…。足りない材料…世界で補うだけ…」
「そうよ、世界。誠くんが朝食を作れなくて困ってるなら、死ぬのは当然でしょう?」
「せ、刹那……お母さんまで……何を言ってるの?」
三人と口元は微笑んでいるのに目は笑っていなかった。
肉食獣が獲物を睨んでいるような目を向けられ、怯えていると、その間に接近していた誠に包丁を振り下ろされた。
咄嗟に伸びた私の両手は誠の腕を掴んでいた。
誠の力に加減は無く、本気で私を殺すつもりのようだ。
「や、やめて…やめてよ誠!」
「つべこべ言わないで…とっとと死んで、世界。」
「避けるなよ!」
誠のもう片方の手が喉元へ伸びてきた。
- 44 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/02/28(木) 01:14:36
- 私は掴んでいた腕を離し、脇へと飛び退くと、近くにあった果物ナイフで誠に応戦した。
振り下ろされる包丁を寸でのところで果物ナイフで弾き返し、それを繰り返していたが、
何度目かに弾き返した時、切っ先が逸れた誠の包丁が、お母さんの喉元へ刺さった。
その瞬間、お母さんは車に轢かれる寸前の猫のような顔をして床に倒れた。
その際に包丁が抜け、傷口から大量に出血が始まり、見る見るうちに生気が失われていく。
そして、ついに絶命してしまった。
「あーあ、失敗か。しょうがない。世界の変わりに踊子さんを使うか。」
立ち尽くすことしか出来ない私に一瞥することなく、誠はお母さんの身体を起こすと、
お母さんの亡骸をテーブルの上に乗せて、残りの血を抜き始めた。
「───!!」
……また悪夢を見た。いや、見せられたというべきか。
カレンダーに視線を移すと、数年前、投身自殺した桂さんの命日だった。
時間は午前4時44分を過ぎたばかり。
……私の業が消えることは、一生無い。
終
- 45 名前:名無しちゃん…電波届いた?:2008/02/28(木) 02:03:57
-
- 46 名前:真空導師 ◆QED///ebvo :2008/03/05(水) 01:19:35
- ロクネンゴノセカイハサンネンゴノセカイヲハンブンニキシヤクシタモノデ
サンネンゴノセカイハイチネンハンゴノセカイヲハンブンニキシヤク
シタモノデス。
アシタハキヨウヲハンブンニキシヤクシタモノデ
イチビヨウゴハレイテンゴビヨウゴヲハンブンニキシヤクシタモノデス。
ハンゲンキハカンケイナイノデス(゚∀゚)
- 47 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/03/09(日) 10:49:32
-
「……私、二人は幸せになれないと思います。」
「言葉…!」
「二人を幸せになんか…しませんから…」
「何を…」
「だって……私は……ずっと…誠くんを好きでいますから……」
「桂、さん…?」
「……永遠に」
誠くんの家のベランダから投げた身体が自由落下していく。
地上へと落ちる須臾の間に、次々と現れては消えていく、誠くんに出会った日から今日までの日々の記憶。
今、私は走馬灯を見ている。
誠くんと一緒にいられた時間はとても幸せだった。
けれど、もうじき私は誠くんのいないところへと旅立つ。
けれど、私はずっと誠くんを見守るの。
だって…私は誠くんのことを……
ずっと…愛しているから…
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!」
西園寺さんの悲鳴が聞こえる。
割れた私の頭から零れ出る脳漿と血が地面に広がっていく。
地面にぶつかった瞬間の痛みは無くて、重たい衝撃が頭にあっただけ。
身体が落下していく最中に、私は全く恐怖を感じなかったし、感じる理由もなかった。
それどころか、身体が落ちていく間、私はとても愉快でたまらなかった。
(あ……)
視界に広がる形式が揺らいでいく。
それはまるで、映画が終わるときのように、景色が段々と暗くなっていく。
あぁ、私はもうすぐ…誠くんの永遠になれるんだ…
そう思うと、私は浮かべた笑みを絶やさずに入られなかった。
さようなら、誠くん……
…さようなら……さようなら……
私の…愛しい人…
誠くん…………さよう…………なら…………
- 48 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/03/09(日) 10:50:25
-
……………………
「……?」
気がつくと私は真っ暗なところにいた。
自分が今いる場所が天国でもなければ地獄でもないことは分かる。
死後の世界に関する話や、そういった本はたくさん読んできた。
けれど、ここが死後の世界だとしたら、それらは想像上のものでしかなかったことになる。
死後の世界って何もない世界なんだな、と思う一方で疑問もわいてきた。
ここは本当に死後の世界なの?
歩こうとして、ふと、足元を見ると、自分が立っていることが分かった。
私は最期の瞬間、うつ伏せに倒れていたはずだったのに。
手を上に伸ばして、損壊して一部が失われた頭を触ってみる。
頭は何事も無かったように損下部部は復元されていた。
自分の現状が把握できない今、復元という表現が正しいかは分からない。
でも、とりあえず、そういうことにしておこう。
「……私は、死んだの?」
- 49 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/03/09(日) 10:51:19
- 答える者はいない。
これから、どうすればいいかのか分からない。
けれど、この場に長く居たくはないと思った。
私は、暗闇の中を進み始めた。
「……何処に…行けばいいんだろう……」
歩く、
歩く、歩く
歩く、歩く、歩く、
歩いて、歩いて歩いて歩いて歩いて歩き続ける。
暗闇の中を歩く。
道標のない暗闇を歩く。
道なき道をただ歩いていく。
今の私にはそうすることしか出来ないから。
そうして、歩き続けて、どれほどの時間が流れたのだろうか?
時間の感覚も分からないこの暗闇の中で、私はいくつかの扉が並ぶ場所に辿り着いた。
真っ暗闇に存在する扉はまるで浮いているかのようで、どこに繋がっているのか見当もつかなかった。
「…………」
- 50 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/03/09(日) 10:52:10
-
行く当てもなく、自分が元いた場所も分からない。
私は扉の一つに手をかけると、ノブをゆっくりと回して中へ入った。
『……助けてください……助けてください……』
「…………」
『……助けてください……助けてください……』
「……私は桂言葉といいます。……貴女は誰ですか?」
『……助けてください……助けてください……』
「質問に答えて下さい。あなたは誰なんですか?」
『……助けを求めている者です。助けてください……』
「貴女が助けを求めている理由は?何故助けて欲しいんですか?」
『私にはもうどうすることも出来ないのです……だから助けてください……』
「……全然、話になりませんね。」
『……助けてください……助けてください……』
私は扉を閉めて外に出た。
外は部屋に入る前と同じく真っ暗な闇。
扉の中にいた女性は助けを求めていた。
何を助けて欲しかったのか、或いは何から助けて欲しいのかは知らない。
ロクに会話することもなく部屋を後にしたが、分かったことがあった。
ここにある無数の扉は、誰かの記憶を閉じ込めたものであるということ。
さっき私が見たのは、誰かの記憶なのだと。
「もしかして…私も…いずれ…?」
- 51 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/03/09(日) 10:53:24
-
答える者はいない。
辺りを見回しても扉、扉、扉……
扉だらけ。
同じような扉がいくつも並び、その数だけ記憶が封じ込まれている。
今の私にどう関係するのかなんて分からない。
それからも私はしばらく、扉の並ぶその場を歩き続けた。
歩いて進んでは扉が現れ、自分の後へと消えていく。
そのうちに、一つだけ形の違う扉が現れた。
それは他の扉よりも一回り大きくて、開けるのに幾ばくか力が必要に思われた。
私はその扉の先が気になったけど、暫く逡巡し、それから扉をゆっくり開いた。
扉は特別力を必要とすることなく開き、その先にはまた暗闇が広がっていた。
ただ少し違っていたのは、自分以外の何者かの気配があったこと。
その何者かは、私が顔を向けるよりも前に私に声をかけてきた。
……黒いマントに身を包んで、顔に仮面を被っていた。
「あなた、迷子ね?」
「…分かりません。ここは何処なんですか?」
「何処でもないわ。」
「あの部屋は?」
「今まで死んだ人たちの記憶を封じた部屋。」
「……私は死んだんですか?」
「死んだ。けど、肉体ではなく心が死んだの。」
「そ、そんな…。肉体が死んでないなんて、そんなはずない……」
「あの部屋は言わば心の墓。」
「…………」
「あなたの心も、きちんと埋葬しなければならない。」
「……私は、何処に行けばいいんですか?」
「あなたの部屋はあっち。けれど、あなたの心はまだ少し生きている。だからこうして彷徨っている。」
仮面を被った誰かは、そこまで言うと言葉を止め、懐から何かを取り出した。
- 52 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/03/09(日) 10:54:21
- 「これをあなたにあげる」
「…これって……拳銃ですか?」
「そう。それを口に咥えて引き金を引く。それで全て終わる。
女の子の力じゃちょっときついけど、思いきり引けば大丈夫。」
「死んだらどうなるんですか?」
「この空間の住人になって記憶される。心が死ねばやがて肉体も死ぬ。
だけど、あなたの記憶は私が覚えててあげるから安心して。」
「…………」
「因みに、その拳銃には弾は込められていない。」
「え?」
「けれど、あなたが望めば何度でも弾は出る。気が変わったら、
その銃で私を殺しに来るといい。一番奥の部屋に私はいる。」
「…………」
それだけ言い残して、仮面を被った誰かは去っていった。
後のは私が一人残されて、辺りに静けさが戻った。
「……私は」
1.何者かを殺しにいく
2.拳銃で今度こそ本当に死ぬ
- 53 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/03/09(日) 10:57:16
- 2.拳銃で今度こそ本当に死ぬ
あの仮面の誰かに渡された券準は、リボルバーと呼ばれる回転式の拳銃だった。
映画やテレビで見たことはあるが、実物こうして見るのは初めてだった。
その実物を手にするのも使うのも。
「まさか、自害のために使うことになるなんて思ってもみなかったな。」
感心したように独り言を呟いて、手に握った拳銃を裏返したりして眺める。
そのうちに手の動きを止め、しばらく拳銃を見つめた後、私は徐に銃口を口元へと運び、そっと咥えた。
私は目を閉じて、拳銃の引き金を引こうとした。
けれど、すぐに口から離した。
「うぇ…」
舌を伸ばしてしまったせいで舌先が銃口に触れ、苦い鉄の味が口に広がる。
気をつけて引き金を引こうとして、私はもう一度銃口を咥えようとしたけれど、
興が殺がれてしまい、すぐに咥える気にはなれなかった。
外に出て記憶の扉を適当に開いて、時間を空けて挑戦しようとも思った。
しかし、余計に醒めてしまい、このまま家に帰りたくなりそうな気がしたのでやめた
これでも一度は躊躇無く実行にした自殺したというのに。
ここにきてどうでもいい理由で機を逃すとは、やるせなさと自己嫌悪で頭を抱えそうになる。
過去を回想しようともしたが、目を閉じる刹那に、良い方法が浮んだ。
あの仮面の人物の元へ行こう。
- 54 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/03/09(日) 10:58:23
- 私は気を取り直して、拳銃を片手にぶら下げるように持つと、先ほど仮面の人物が去っていった方へ歩き始めた。
やはり道なき道を歩いたが、ここへ来たばかりのときのような不安はない。
寧ろ、この先にあの仮面の人物がいるという確信と、今度こそ誠くんの永遠になれるという期待からだろうか?
僅かばかりだが心が躍り、歩調も自然に早歩きになっていった。
間もなくして、視線の先に小さな変化が現れた。
暗闇ばかりだった空間に、小さな粒のような光りが見え、それは近づいていくたびに大きくなっていく。
足を止め、光りの発生源の下へと到着したときには、目の前にこじんまりとした扉があった。
どこかの家庭に一つはありそうな、部屋の出入り口のような扉が。
光りはその隙間から漏れており、扉の向こうに誰かがいる気配。
それはあの仮面の人物のものであると、疑ってかかることは無かった。
私は逡巡することなく扉を開けると、まるで自室に入るかのよう中へ入って扉を閉めた。
四方の壁と床と天井は白く、今しがた入ってきた扉がある壁以外には窓がある。
窓は両開きに開かれており、波が打ち寄せては引いていく音が聞こえてくる。
どうやら、窓の向こうは何処かの海辺に通じているらしい。
仮面の人物は、部屋の中央に立っていた。
「…また会ったね。」
「…さっきはどうも。」
- 55 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/03/09(日) 10:59:38
- 仮面の人物は現れた私に驚くことも不満もない。
ただ、部屋の中央に立って、私を見つめているだけ。
須叟、沈黙があった。
部屋に漂うのは自分の小さな息遣いと、窓の向こうから聞こえる波の音。
沈黙を先に破ったのは相手だった。
彼か、彼女か。
とかく仮面の人物は今更のように私に尋ねた。
「その銃…もしかして、私を殺しに来たの?」
私はそれに否定の返事を返した。
「そう。なら、早くその銃をあなたに使うといい。ここで私が見ていてあげる。そして、ずっと覚えていてあげる。」
仮面の人物は安堵も何も言葉に含めることなく言った。
私は仮面の人物に見守られながら、ゆっくりと手上げて、銃口をこめかみに当てた。
私は口元を会釈するようときのように笑みを浮かべると、引き金に指をかけた。
これで失敗することはない。もう大丈夫。
この人が見ていてくれる。
この人が覚えていてくれる。
私は今度こそ本当に誠くんの永遠になれる。
そして、私は指に力を込めて思い切り引き金を引いた。
バン!
まるで、かんしゃく玉が破裂したような音を立てて銃弾が発射された。
銃弾が私の頭を貫通するのは刹那の間だった。
視界が揺らぎ、がくんと私は地に倒れ込む。
突き飛ばされて倒れそうになった身体を、支えようとする時と同じように、
片足が前に出て、それから崩れるようにして身体が地に横たわった。
出血する感触はなかったが、白塗りの部屋と仮面の人物が見えなくなって、波の音が遠ざかっていった。
視界が暗くなり、音が何も聞こえなくなって、やがて全てが闇に閉ざされた。
私、誠くんの永遠になれたのかな?
終
- 56 名前:名無しちゃん…電波届いた?:2008/03/12(水) 19:23:34
- 保守
- 57 名前:名無しちゃん…電波届いた?:2008/03/12(水) 23:14:28
- 我々は優良人種であるニダ。
- 58 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/03/18(火) 01:04:43
- 1を選択したケース。
あの仮面の誰かに渡された券準は、リボルバーと呼ばれる回転式の拳銃だった。
映画やテレビで見たことはあるが、実物こうして見るのは初めてだった。
その実物を手にするのも使うのも。
「まさか、自害のために使うことになるなんて思ってもみなかったな。」
感心したように独り言を呟いて、手に握った拳銃を裏返したりして眺める。
拳銃は傍目から見れば、モデルガンと言われれば信じてしまうほど現実味がない。
こうして手に持って重みを感じることで、はじめて本物だと実感できた。
けれど、それでもまだ足りない。これが本物の拳銃であることの証明が。
私はそれを満たすべく、趣味で読んでいた本の内容を思い出しながらリボルバーの
弾倉を開放する。
横方向へずれた弾倉の中には、あの仮面の人物が言った通り、弾丸は装填されて
いなかった。
ならば、引き金を引いても弾丸は出ない。それが道理。
つまりは、私は死ぬことは出来ない。本来ならば。
だが、仮面の人物は、私が望めばいくらでも弾丸が出ると言っていた。
「……本当に?」
呼吸を一つ。
私は仮面の人物が去った方向とは逆を向いた。
テレビや映画の見よう見まねで銃を構えると、引き金にゆっくりと指をかける。
狙い定める先は何処までも広がる闇。
指に力込め、引き金を引き絞る。
バン!
手に伝わる痺れと、耳に響く乾いた音。
銃口からは硝煙が上がり、弾丸が装填されていないはずの拳銃からは弾丸が発射された。
この銃が本物であることと、あの人物が言っていたこはこれで証明された。
あとはこれを自分に向けて使うだけだ。
それで私は誠くんの永遠になれる。
私は銃口を自分に向けると、引き金を指にかけて、もう一度引き絞ろうとした。
だけど……
その時、私の中に小さな疑問が沸いた。
これで本当に私は死ねるのだろうか?と。
あの仮面の人物が言っていた言葉が、頭の中で反芻する。
そうだ…あの人は確か…
- 59 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/03/18(火) 01:05:02
- 拳銃を片手にしっかりと持ち、先ほど仮面の人物が去ったほうへ向き直り、真っ直ぐに歩く。
道はなく、どこまで歩いても闇が続くばかりだったが、やがて視線の先に小さな変化が現れた。
暗闇ばかりだった空間に、小さな粒のような光りが見え、それは近づいていくたびに大きくなっていく。
足を止め、光りの発生源の下へと到着したときには、目の前にこじんまりとした扉があった。
どこかの家庭に一つはありそうな、部屋の出入り口のような扉が。
光りはその隙間から漏れており、扉の向こうに誰かがいる気配がした。
それはあの仮面の人物のものであると、疑ってかかることは無かった。
私は逡巡することなく扉を開けると、まるで自室に入るかのよう中へ入って扉を閉めた。
四方の壁と床と天井は白く、今しがた入ってきた扉がある壁以外には窓がある。
窓は開かれており、両開きのようだ。
……波が打ち寄せては引いていく音が聞こえる。
どうやら、窓の向こうは何処かの海辺に通じているらしい。
仮面の人物は、部屋の中央に立っていた。
「…また会ったね。」
「…さっきはどうも。」
仮面の人物は現れた私に驚くことも不満もない。
ただ、部屋の中央に立って、私を見つめているだけ。
須叟、沈黙があった。
- 60 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/03/18(火) 01:05:25
- 部屋に漂うのは自分の小さな息遣いと、窓の向こうから聞こえる波の音。
沈黙を先に破ったのは相手だった。
彼か?
彼女か?
とかく仮面の人物は今更のように私に尋ねた。
「その銃…もしかして、私を殺しに来たの?」
「そうですよ。」
私はそれに肯定の返事を返した。
「心が死んでも、肉体が一緒に死ななければ意味がないんです。
あなたは心が死ねば肉体もやがて死ぬといった。けれど、その
保証はどこにあるんですか?」
そこで言葉を切って、私は銃口を仮面の人物に向けた。
仮面の人物は抵抗する素振りも、避けようとする素振りも見せない。
引き金に指をかけ、引き金を引き絞り、弾丸を発射する。
バンッ!
- 61 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/03/18(火) 01:05:49
- 弾丸は仮面の人物の額に命中し、その真ん中に小さな穴が開いた。
次いで亀裂音を鳴らして罅が生じ、罅は瞬く間に仮面全体に広がっていく。
蜘蛛の巣に似た模様が縦横無尽に走り、小さな破砕音を鳴らして砕け散る。
仮面の下の顔を確認しようとした瞬間に、今度は空間自体に罅が入った。
仮面同様、蜘蛛の巣に似た罅が空間に走り、瞬く間に空間全体に拡がっていく。
先ほどまで聞こえていた波の音は消え失せ、今は小さな亀裂音が何度も音を立てる。
やがて、亀裂音が止んだのと同時に罅だらけの空間は霧散した。
…………
気が付くと、私は榊野町駅前にいた。
私は飛び降りた瞬間と変わらず、制服を着ていた。
周りの人々は、私を一瞥して去っていく人と、一瞥もしないで去っていく人だけ。
「あれは……夢じゃなかったの?……私、まだ…生きてる……の?」
手に何かを握っている感触に気付き、その手に視線を移す。
手には、あの拳銃を握ったままだった。
「…………」
私は弾丸を三度発射しようと、銃口をこめかみに当てて引き金を引き絞った。
弾倉が回り、カチッと乾いた金属音を鳴らして静止する。
拳銃から弾丸は発射されなかった。
カチッ
カチッ
カチッ
カチッ
カチッ
カチッ
- 62 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/03/18(火) 01:06:05
- 何度も引き金を絞った。
弾倉が一周した。
弾丸は発射されなかった。
弾丸が発射されることを望んでいるのに。
「私、死ねないんだ…?」
心に空虚が広がり、埋め尽くしていく。
私の最後の決意が水泡に帰した。
私は誠くんの永遠になることすら出来なかった。
私は…私は……私は…………私は……
………………わたしは……ワタシハ…………watashiha…………
「死ねないんだ、私…。うふふ…そう、そうなんだ…?死ねないんだ…?……ウフフフ……あはっ!あはははは…!あはははははははははは!」
- 63 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/03/18(火) 01:06:25
- 涙が止まらない。
涙を止められない。
笑いが止まらない。
笑いを止められない。
「あの、誰か私を殺してくれませんか?誰か私を殺して下さい!誰か!!」
『ねぇ、あの子おかしいんじゃない?』
『ありゃヤク中だろ。クワバラクワバラ』
『あの女ヤベェ。目が合う前に行こうぜ。』
『警察呼んだほうがいいんじゃない?』
自殺しても死ぬことが出来なかった。
道行く人に私の願いは聞き届けられなかった。
私は誠くんの永遠になることが出来なかった。
涙はただただ溢れ、それは止まることを知らなかった。
助けて
助けて
助けて
助けて
助けて
助けて!!
終
- 64 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/03/19(水) 01:09:42
- ショートネタJ
語り手:誠
ある日、心ちゃんから電話があった。
先日、言葉に別れ話をしたが、せめて最後に自分の料理を食べて欲しいという。
世界の同伴を条件に同意すると言ったが、言葉は聞き入れてくれない。
仕方なく、これで最後ということを条件に食事会に出席することに。
世界には電話でそのことを話し、何とか説得して納得してもらった。
食事会にはすき焼きが用意され、心ちゃんが配膳をしてくれた。
言葉の姿はなく、心ちゃんに聞いたところ、気分が優れず部屋で横になっているとのこと。
「お姉ちゃんが一生懸命作ったんだよ。味わって食べてね。」
心ちゃんの笑顔が胸を締め付ける。
復縁を期待しているのだろうか?
食事が終わったあと、部屋にいる言葉に最後に会って欲しいと言われた。
ベッドで片寝で背を向けている言葉の顔を見ようと、奥に回り込むと、
言葉は腹に穴を開けて死んでいた。
腹の中には一切れ紙があり、俺宛てにこう書かれていた。
私のすき焼きは美味しかったですか?
その後、誠は発狂して自殺する。
終
- 65 名前:名無しちゃん…電波届いた?:2008/03/26(水) 16:55:10
- ここが水銀燈のハウスか
- 66 名前:名無しちゃん…電波届いた?:2008/03/26(水) 18:08:03
- カナリエと同じ匂いがする
- 67 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/03/29(土) 13:27:58
- 心の手紙
誠くん……どうしてなの……?
どうして、誠くんは、お姉ちゃんに冷たくなってしまったの?
お姉ちゃんは、いつも誠くんのことを、将来のことも含めて真剣に考えているんだよ…?
誠くんのおうちに電話してもいつも留守番電話で、携帯電話は通じない。
お姉ちゃんがメールを送っても、全然見てくれてないみたい。
学校で会ってもそっけない素振りなんだってね。
今では電車に乗る時間も、お姉ちゃんの乗る時間を避けるようになってるとか。
…誠くんは知らないの?
ううん、知っていても見てない振りをしてるんだね、きっと。
お姉ちゃんが、どんなに傷ついているかってことを。
もしかして、誠くんは他の女の子が好きで、お姉ちゃんのこと、もうどうでもいいっていうの?
昔はあんなに仲よさそうに付き合ってたのに……そんなの酷すぎるよ。
お姉ちゃんが、段々、心の知ってるお姉ちゃんじゃなくなっていく……
もう、耐えられないよ…
お願い、誠くん。
早く、目を覚まして言葉お姉ちゃんの元に返ってきてあげて…
正気に返って、お姉ちゃんを助けてあげて…
終
- 68 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/03/29(土) 13:51:35
- 拝啓 西園寺さんのお母様へ
突然のお手紙をお許しください。
私は西園寺世界さんと同じ学園に通う、一年三組の桂言葉と申します。
西園寺さんのクラスの、隣のクラスに籍を置いています。
私には伊藤誠くんという、西園寺さんの紹介で出会った彼氏がいるのですが、
先日、西園寺さんから、彼女が誠くんの子供を妊娠しているという話を聞きました。
私はそれを聞いた時、それは何かの間違いで、西園寺さんが誠くんの気を引くために、
わざわざ教室で他の生徒がいる前で言った嘘だと思っていました。
私は西園寺さんが、自分が誠くんを紹介しておいて、裏では身体を使って誠くんを誘惑するなんて酷い人だと思いました。
ですが、今は過ぎたことと受け止めるしかありません。
西園寺世界さんは、私にとって初めて出来た親友だと思っていたのに、こんな形で裏切られるなんて、夢にも思っていませんでした。
私は西園寺さんが言った妊娠が、事実かどうか分かりませんでしたが、誠くんの彼女は私です。
誠くんの性格を逆手にとって誘惑した西園寺さんが悪いのであって、彼女が妊娠したのは彼女自身の責任です。
だから私は、責任を彼女自身で取らせるために、病院を紹介することにしました。
ただ、私から直接言っても聞く耳を持つとは思っていませんでしたので、誠くんを通じて紹介しました。
するとどうでしょうか。
あろうことに、西園寺さんは、誠くんを……誠くんを……
私の誠くんを……奪ったんです……
この世から……
永久に……
私は誠くんの無念を晴らすべく、西園寺さんの妊娠の事実を確かめるべく、
私のこの手で、直接彼女の妊娠を確かめることにしました。
- 69 名前:水銀燈(Mercury Lamp) ◆rRvx0vSxmc :2008/03/29(土) 13:52:00
- 誠くんの携帯電話で屋上に西園寺さんを呼び出した私は、彼女に病院に行ったかを尋ねましたが、
屋上に現れた彼女は私に「私が紹介した病院には行きたくない」、「私だって誠の彼女になりたかった」などと罵声を浴びせてきました。
誠くんの気持ちを知らない彼女に、私は最後に一目、誠くんに会わせてあげようと思い、鞄に入れて運んできた誠くんに会わせてあげました。
誠くんの姿を見た彼女は、その場で口元を押さえて嘔吐を堪えていました。
私はいよいよ、西園寺さんを解体するべく、鋸を取り出しました。
少々予想外のことに、西園寺さんは誠くんを殺めた包丁で抵抗しようとしました。
しかし、自分で申し上げるのも難ですが、居合いの免許皆伝を持つ私相手に、素人が勝てる道理はありません。
呆然とする西園寺さんの首筋を鋸で引き裂き、出血性ショックを与えると、彼女の身体を仰向けに倒し、彼女が持ってきた包丁でお腹を引き裂いてあげました。
そして、中を確認してみたところ、中には誰もいませんでした。
こうして彼女の妊娠は嘘だったと証明されたのです。
どうか、西園寺さんのお母様においては失望されることはありませんように。
私は決して、西園寺さんの存在を端から否定していたわけではありませんでした。
彼女は己の業によって死んでいったのです。
長い手紙になりました。
この手紙もそろそろ締めくくらせていただきたいと思います。
西園寺世界さんのお母様に最高の感謝と不敬を込めて。
終
- 70 名前:名無しちゃん…電波届いた?:2008/04/24(木) 18:55:29
- ここが水銀燈のハウスね
- 71 名前:名無しちゃん…電波届いた?:2008/04/27(日) 19:11:07
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